樹
先に私が気付いていれば、あなたに冷たい顔をさせなくて済んだのに。
そんな都合良く籠が開いてるわけないんだよな。
ヘン顔、見てしまった。
石になってしまった僕を無視して出て行く事も出来たのに、君はそうしなかった。その一言は嘲笑であり、キスだった。
軽蔑の眼差しでさえ一瞬絡まり合えば心が躍る。
逃げてばかりの私です。
昔君が僕に隠していたその気持ちを、今は僕が君に隠さなくてはいけない。あの日の君の胸の痛みは、今僕の心を押し潰そうとする。 見届けなくても判る、そのエレベータは僕を残したまま君を乗せては上に行ってしまった。
振り向けないのは脇腹を痛めているせい。 だけじゃない。
手のひらに包まれ、指先で玩ばれ、突き放される。 お帰りなさい、そして長い間おつかれさま。今は僕のそばで眠ればいい。
私をいつまでも赦さないでいて欲しい。
心の奥にある扉の鍵。 扉を開いたままなのに、その黒い鍵は陽射しに溶けた。
プレゼント、届きました。 大切にします。
「ごめんなさい」って君に言わせてしまった。君は「ごめんなさい」と言ってはだめです。「ごめんなさい」は僕の言葉だから。
ごめんなさい、死角だったんです。
正面から斧が振り下ろされ、左耳がそぎ落とされる。 その耳が最後に聞いた言葉が頭の中でいつまでも響いている。
左肩に熱が走る。 一瞬遅れて、ダッーン!と衝撃音が来る。 意識が遠くなると同時に、うつ伏せに倒れた。 振り返る事も出来ずに、僕は背中から撃たれた。 僕を撃った君は、喜んでくれているか。 「やった、殺してやった」って笑ってくれているか。 君の憎し…
本当の気持ちを気付かれるのが怖くて、幸福が背中を通り過ぎて行く間、僕はずっとうつむいたままでした。