なんちゃって課長日記

社会的入院中の妹を持つきょうだい爺の生活とその周辺

妹.近所の独身男性のお宅に不法侵入していた

私が母を寝かしつけて庭で洗濯物を干していると、空き瓶が入ったゴミ袋を手に持った見知らぬ年配の男性が東側のゴミステーションに向かうのがブロック塀越しに目に入った。翌朝は資源ごみ回収なのでその人がゴミ出しに向かっている事は理解出来るが、彼が歩いてきた西側にもゴミステーションがあり、私の家からもその西側の方が近いのである。私は不審に思い彼の背中に少し大きな声で「こんばんは」と声を掛けた。彼はちらっと私に振り向いたが無言で歩いていってしまった。程なくして戻って来た彼が今度は私に「こんばんは」と挨拶されたので私も改めて「こんばんは」と返した。そのまま彼は来た道を戻り掛けたが、もう一度私を見て意を決したように「あの。。。お姉ちゃんいましたよね、最近見ないですがどうされていますか?」と聞いてきた。全く予想だにしていなかった展開に困惑する。(もしかして、何度か電話で話した事のある妹のストーカー君かと思った。と言うのも、彼が掛けてくる固定電話の方は最近着信があっても無視していた事で彼の気持ちを逆撫でしてしまい、住所を突き止められたのかと思った)

「すみませんが、お名前は?」
「S本です」
「えっ? S本さんってそこの?」(そのお宅を指差しながら)
「そうです」
「失礼しました。だいぶ痩せられたので、正直誰だか判りませんでした。」(ある予感が頭をよぎる)
「ええ、80Kgあったのですが、胃がんで20Kg痩せました」(予感が的中する)

私は頭の中でS本さんの顔を最後に見たのはいつだったか記憶を辿った。そうか、私が介護離職する前は、時々帰宅時刻が重なるのか、彼が家の鍵を開けるところや、引き戸を開ける際に室内飼いしている猫が外に出ないように気をつけているのを見た事が何度かある。私が家にいるようになってからは、定期的に家事代行サービスのスタッフと思われる作業服の男女が日中出入りして、玄関を掃除したりしているのを何度か目にしていた。つまりその頃、S本さんは入院していたらしい。
私がS本さんに持っていたイメージと、今回話を伺ってわかった事をまとめると。。。

  • 6年くらい前に近所の中古の一軒家を土地付きで購入して一人で越して来られた。(失礼ながらそれほど良い物件ではない、私が物心ついた頃からある平屋で築50年くらい。前の住人は中年のご夫婦で越して来られて、その後お年を召されて、お亡くなりになった。)
  • 猫好きなようで、室内飼いしている。多分そのために手頃な一軒家が必要だったのだと思う。
  • 年齢は私より3〜4歳上で60手前くらいだと思っていたが、実際には私より15歳も上で現在79歳との事。だとすれば、現在の風貌と年齢はマッチする。
  • 体型は中背で肥満まではいかないが、決して健康的とは言えなかった。しかし、実年齢から考えるとかなり若く見えていた。
  • 自宅から作業着を着て毎朝徒歩で出勤。徒歩圏にある工場に勤務している。と思っていたが実際にはマンションの管理人さんで、退院後も職場に復帰されている。
  • 時々Amazonから酒類が届く。(Amazonの酒用ダンボール箱って判りやすいですね)
  • 猫の鳴き声も匂いもなく、生活音すら聞こえて来ない、静かに生活している。
  • 近所付き合いなし。(転居してきた中年独身男性が地域コミュニティに途中参加するのはハードルが高いので、それは別に珍しい事ではない)

「そうだったんですか、大変でしたね。妹ですが、実は今精神科病院に入院中です、そろそろ3年半になります」
「そうですか、最近見かけないのでどうしているのかと思って。。。」
「色々ご迷惑をお掛けしたのではないですか?」
「いや、そんな大した事では無いのですが、実は一度こんな事がありまして。。。私、日中家にいる時には鍵は掛けてないのですが、ある日昼寝をしていて眼が覚めると家の中に彼女がいたんです。」
まさか、妹がそんな事までやらかしていたとは。私は真っ青になり、その後は平謝りだった。

その時妹は「猫ちゃんいてる?」と聞いたらしい。確かに妹も猫が好きなので、S本さんが猫を飼っている事を知って見たくて仕方なかったのだろう。相手の事など御構いなしにただ自分の欲望に忠実に行動する妹なので、私は謝りながらもS本さんの話がストンと腑に落ちて行った。

「その後、こんな事もあったんですよ。うちの猫が一匹逃げ出して、夜仕事が終わってから懐中電灯で照らしながらいそうなところを何日も探し続けていてたんです。それで、ある日また猫を探しに出ようと家を出たら、そこの2階の窓*1から妹さんが顔を出して『猫ちゃん見つかった?』って声を掛けてくれたんです。きっと私が毎晩猫を捜しているのをあの窓から見ていてくれたんだと思います。それで私、『あぁ、この人は悪い人じゃないんだな』って判ったんです。」
妹の問題行動に追い詰められて父が自殺してしまったその一方で、こんなすぐ近くに妹の理解者が居たとは。。。 もう、何というか、言葉がない。

*1:確かにその窓は当時母と妹の寝室だった